第7回クオリアAGORA/蓄電がうみだす未来のエネルギー社会
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スピーチ 「POWERNET~蓄電がうみだす未来のエネルギー社会」
CONNEXX SYSTEMS 社長 塚本 壽氏
山口 栄一
この会にまだクオリアという名前もなく「わいがや」を始めた頃、2007年ごろでしたか、堀場さんから「京都がもっとベンチャー企業が輩出するようなでピチピチ活気づく街になるにはどうしたらいいだろう」と聞かれて、アメリカには、京都出身で成功している企業家がいるので、呼び戻したらいいのではないですかと答え、その一つの例としてあげたのが、きょうおいでいただいている塚本さんだったのです。
日本電池(現在のGSユアサ)をスピンアウトし、西海岸でゼロから始めて30億円企業を創った方です。 若干酔った上での話だったのですが、じゃあ、彼を呼び戻そうということで盛り上がりました。 その後、塚本さんに福島の原発事故の後お会いすることもあったのですが、「瓢箪から駒」といいますか、その話が現実となり、塚本さんは京都に帰ってきて起業されたというわけです。 きょうは、塚本さんの会社がどんな技術で何をされようとしているのか、どうして京都で再び事業をされることになったのかなどのお話を聞かせていただけるものと思います。
塚本 壽
今おっしゃっていただいたように、2007年から少し時間がかかりましたが、12年に京都で事業を始めることにしました。 小さな会社であっても京都で会社を創れたのはとてもハッピーな気持ちで、前向きな気持ちでがんばりたいと思っているところです。
それで、CONNEXXSという会社が何なのかということなんですが、河原町今出川のクリエイション・コア京都御車というビル内に一室を借りてスタートしました。 新しい蓄電システムのビジネスを計画しているのですが、この小さな会社だけでは出来ることも限られており、いろんな人、組織と連携してやっていきたいと考えております。
私は、経歴にも書いておりますように、1999年にアメリカに行き、借りた倉庫でQuallionという会社を立ち上げ、12年かかって売上高30億円、従業員180人の会社にすることができました。 医療用の体内インプラント電池、衛星用電池では世界のリーディングカンパニーになったと自負しており、一つの例として、2015年以降の米国のスパイ衛星用電池は、全てQuallion製になることが既にきまっております。
こんなわけで事業として、まあ、満足していたのですが、ある時、わが社の近くにある会社の経営者と知り合ったことで、私の中にある思いがわいてきたのです。 その企業は、何と3年で、売上高6億ドル、180人の従業員を持つ会社になりました。 どんな仕事をしているかというと、インターネット上で結婚相手を探すという事業で、米国民の5%にも当たる人がこれによって結婚しているというんです。 この会社を知って、スペシャルティに特化するのもいいが、もっとマスプロの仕事がしたいなあ、と。 それで、じゃあ、ものをたくさん正確に作るには、日本がいいと、京都に帰ってきたというわけなんです。
では、まず、ちょっと、ぼくがやってきたスペシャルティ、「特殊電池の世界」を説明させてもらいます。
私が最初に始めたのは、資料3の表でいいますと、左の上の方の「メディカル」のマーケットでした。 それまで、日本電池でやっていたのは、表の右下、コマーシャルPCとか書いてあるあたり。 今ではトランスポーテーションと書いている部分もあわせ日本が得意とする分野で市場も大きい。 ただ、このPCとかケータイに使うコンシューマー用電池は、量は多いが単価が安く、値段がどんどん下がっていくという分野なんです。 これに対し、アメリカでぼくが始めたメディカル用は、逆に数量はとても少ないが、非常に単価の高い電池です。 大体、年間150億円弱(1億5千万ドル)の市場と思っています。 ぼくはここで自分の会社のコアを作り、この技術を用いて電池を大きくしていきエアロスペース(航空・宇宙)用の電池へと進みました。 ですから、メディカルもエアロも二つの電池は、どちらも電極数、物質、設計理論すべて同じです。 30ミリリアンペアh、錘のような電池70アンペアh以上などありますが、中身は一緒です。 ここまで来て、それで、次にディフェンス(軍需)マーケットの市場に進出しました。 これは、3千億~4千億円以上の米国にしかないマーケットです。 高価格の飛行機、無人偵察機用の電池から始め、陸軍の兵士が携行して使うような低価格なものにはあまり手を出さず、非常に高価格なところから、徐々に徐々により量の出るものに進出していくという戦略で12年間進めてきました。
このエアロとかディフェンス用は、全く値下げもなく、性能改善にはものすごく反発もあり、仕様を簡単には変えられないという日本にはないマーケットで、面白い経験をしたと思っております。 具体的にどういうものをやってきたかというと、様々な需要があるんです。 画像で示しておりますように、ミサイル、これは開発中のX-51、次期戦略戦闘機に使う低温始動用電池など。 地上でもタンクをはじめ燃費向上のため車両のHEV化が盛んで、海では、日本でもこれから重要になると考えられますが、無人潜水艦用電源などの需要もありました。 とにかく、ケータイとかパソコン用と違い、いろんな変わった特性を求められます。 一方、メディカルで代表的な電池は、この小さなインプラントデバイス用。 (資料4)写真でご覧頂いている膀胱に埋め込み神経を刺激する小さな装置のリチウムイオン(Li‐ion)電池(直径2・8ミリ、長さ12ミリ)です。 メディカルでは、実は心臓関係が一番大きな市場だろうと思いますが、最後まで手が出せませんでした。 心臓は直接生命に関わり、非常に恐ろしいので後回しにし、たとえバッテリーが不具合を起こしても命にはすぐかかわらない神経刺激のデバイス用から入っていこうと考えたのです。
このようにまあ、日本では経験できない仕事でありまして、健康を守るメディカルもエアロやディフェンスもいずれも国家・国民の安全(ナショナルセキュリティー)に貢献する仕事だと思って続けてきたわけです。
小さな会社を一人で始めました。 非常に特殊なもので、ほかの人がつくらない、つくれないものからスタートし、だんだんボリュームの出るものに変えていくというやり方です。 利益面は、DoE(米国エネルギー省)からどのぐらいお金が出ているか知りませんが、例えばディフェンス用ならDoD(国防総省)のファンドの担当の人が、製品を作るたびにお金をくれ、できたら買ってくれる。 そういう人との付き合い方で、会社を動かしてきました。
ところで、
医療用電池に関連して、7、8年前に心臓ペースメーカーの市場を調べたことがあります。 当時、ケータイ電話と同じぐらい、年間数千億円の市場でした。 とんでもないことだと思って、ペースメーカー開けてみたら、ものすごく幼稚な電池を使っているんですね。 まるで前時代の遺物。 それで、日本でもすぐできるだろうと思って、パルス発生能力がその電池より1000倍も高い自分の二次電池のデータをもって厚生省(当時)に行き、この電池と日本のマイクロエレクトロニクス技術でペースメーカーを作れば10分の1ぐらいの大きさの高性能のものができます、と説明したんです。 ところが厚生省のこたえは、大学の先生がOKといわないと難しい、と。 それで、大学に行ってみると、企業に聞いてみてくださいといい、企業は、厚生省がうんといわないと、という。 この堂々巡りに呆れ、これはたまらないと思いやめてしまったのですが、非常にもったいないことでしたねえ。 現在は、日本の企業の関心もだいぶ高くなってきているようなんですが…。
それで、医療用分野が面白いことを実感してもらえると思いますので、ペースメーカーが世界でどのぐらい使われているかというこの表を見てください。
ちょっと古いのですが05年のデータで、日本、ヨーロッパ、アメリカでのペースメーカー使用者は、大体1万人中240~250人といわれております。 これに対し香港は162人ちょっとで比較的多いものの、22人の中国、インドは18人、韓国で大体75人とまだまだ少なく、10年の予測ではそれぞれ2倍ほどになっています。 ペースメーカー使用者はこれから、アジアの国々では日本や欧米並みになるはずで、需要の増大が予想されます。 それでペースメーカー、電池もたくさんつくられるようになると思うんですが、ポイントは、ヨーロッパで推定されている医師不足です。 これは世界的な傾向でもあり、そのためにペースメーカーをできるだけ長く体内に入れておくという方向になって、電池も外から充電できる二次電池が使われるようになるだろう―ぼくはそう考えまして、ペースメーカーを仕切っている3社にデータを送って、売り込みをかけてみました。 すると試してみたいといってきて、その結果、いい電池だと評価も高かったんですね。 でも、結局、「いらん」という返事ばかりでした。 よく考えてみると、実は、1個デバイスを入れるとメーカーは300万円儲かるんです。 お医者さんも、手術すれば儲かる。 だから、デバイスや電池を長寿命化させようなんていうニーズは全くないんですよ。 ほんとに悔しい思いをしたんですが、でも、ぼくは、アジアでは、ペースメーカーなど医療用電池の可能性、チャンスはこれからすごくあると今でも思っています。
さて、ぼくが今後やりたいことをお話していきたいと思います。
表題にもしましたが、「パワーネット」というものがつくれないかと考えているのです。 インターネットみたいな、サーバーで電池がつながっている電気のネットワークを想像していただければいいでしょうか。 近い将来、街中には大小のいろいろな蓄電デバイスが増えていくことになります。 例えば変電所には5000キロワットhの蓄電デバイスが置かれ、そうですね、ロサンジェルスのような街なら200カ所ぐらい、工場なんかにはバックアップ用ディーゼル発電に代わって500キロワットh蓄電装置が2000ユニット、150キロワットh程度の電気自動車の急速充電ステーションが200カ所、10キロワットhと考えられる家庭用ソーラ発電のバックアップ用電池が30万ユニット…という具合なんですが、こうした街中に存在する大小さまざまな蓄電デバイスを、統一されたインターフェースでつなぎ、電力会社などがコントロールします。 そうすると、実に5000㍋ワットhを超える巨大な蓄電システムとなる「パワーネット」が出現するというわけです。
電池の大小に関係なく、統一インターフェースさえ設けておけばいいので、将来、可能性は高いと考えており、これが日本でできないかなと思っているところなんです。
それで、パワーネット用の電池には何がいいのかということになるのですが、上の表にしております通り、鉛電池、Li-ionともコスト、性能などそれぞれいいところも悪いところもあります。 それで、そこにも書いております「Bind Battery(バインド電池)」(国際特許出願済み)というものを開発しました。 安価、安全、低温特性に優れた鉛電池と軽量、高エネルギー密度、長寿命のLi-ion電池を並列に接続した12ボルトの仮想セルを、直列に接続して構成した電池です。
この表にありますように、鉛でできない回生充電が可能であるとか、Li-ionが弱い低音特性に優れているとか、見事に鉛、Li-ion電池両方の良さを併せ持った電池であります。 この電池は、鉛にLi-ionを後付けして作れるなど安価で製造可能で、移動も簡単なので、資料にあげておりますように、マイクロハイブリッド車用などいろいろな用途が考えられますが、特に「パワーネット」の蓄電池として最もいいだろうと思っております。
もう一つは、
ぼくは、大学卒業以来ずっと研究者をしていて新しい材料に興味があり、いろいろやっておりまして、今持っている技術の一つが新しい負極材料の「シリコン カーボン コンポジット」です。 SCCといっておりますが、これ、こないだNHKで放送されました。 実効放電容量が1200ミリアンペアh/グラムもあり、従来のはグラファイト系の負極の実に4倍になります。 サイクル寿命も極端によく、普通のLi-ionは500サイクルで死んでしまいますが、2000㌟と寿命も大変長い。
これはまだ、お金も時間もかかりますが、放電容量が4倍になりますとエネルギー密度はとしては1.5倍から2倍になり、例えば現在200キロの電気自動車の走行距離が400キロに伸びるわけです。 こうなると、電気自動車も大いに現実味が出てきます。 それで、負極もやったんだから、正極もなんとかできないかということで、今使われている高価なコバルトの代わりに、日本にもふんだんにある安価なイオウが使えないかと今、開発を続けています。 まあ、化学者になろうと思ったのは、阿蘇山で黄色いイオウを見たのがきっかけで、イオウに思い入れもあるんですね。
現在、容量が1400ミリアンペア/グラムで、一応理論容量は1670ぐらいですかね。 だからほぼ容量は出ています。 今の正極の3倍ぐらいですが、先にいいましたSCCの負極と組み合わせますととても革新的なLi-ionバッテリーができると思って開発を続けていますが、1年ぐらいでかなり進むのではないかなと考えています。
ぼくたちの技術について、バラバラと話しましたが、お気づきのように、そんなに高度なことを考えているわけではありません。 ほんとうに簡単な発想で役に立つものを作りたい。 SCC、イオウ正極についても、結果は何かすごいことのようですが、プロセスとか設計のコンセプトは驚くほどシンプルなことでして、このように非常に簡単もので革新的なものが次々と生まれてくるような仕事をこれからもめざして行きたいと思っております。 どうも、ご清聴ありがとうございました。
≪塚本氏スピーチの資料ダウンロード(PDF:8.88 MB )≫
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