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第7回クオリアAGORA 2016/「茶室」から何を学ぶか!?



 


 

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第7回クオリアAGORA 2016/~京都から2030年の未来をつくる~「課題解決のヒント満載の“茶室”から何を学ぶか!?」/日時:平成28年1月28日(木)18:00~21:00/場所:徳正寺(京都市下京区富小路四条下ル)/スピーチ:藤森照信(建築史家 建築家 東京大学名誉教授)/【スピーチの概要】藤森照信さんは、これまで一風変わった建築や茶室をつくってきたが、25年を経てヘンなことをするわけが理解できるようになった、と言われる。 そして茶室には21世紀の課題を解き明かすヒントが詰まっていると…。 新しい年の第1回は、日本のアイデンティティのひとつである「茶室」から何を学ぶか、藤森さんが設計した茶室「矩庵」がある徳正寺で開催します。 藤森さんと山極京大総長の対談もあり、2030年を皆様と一緒に考え、つくりたいと思います。 /【略歴】藤森 照信(建築史家 建築家 東京大学名誉教授)1946年長野県生れ。 東京大学建築学専攻博士課程修了。 専攻は近代建築、都市計画史。 東京大学生産技術研究所教授、工学院大学建築学部教授などを歴任。 86年赤瀬川原平、南伸坊らと路上観察学会を結成し、「建築探偵の冒険・東京篇」を刊行。 91年〈伸長官守矢史料館〉で建築家としてデビュー。 98年「明治の東京計画」及び「日本の近代建築」で日本建築学会賞(論文)、2001年〈熊本県立農業大学校学生寮〉で日本建築学会賞(作品賞)を受賞。 〈赤瀬川原平氏邸(ニラ・ハウス)〉〈矩庵〉〈高過庵〉〈焼杉ハウス〉〈草屋根〉他住宅、美術館、茶室など多数。 著書に「日本の近代建築㊤㊦」「磯崎新と藤森照信の茶室談義」他。




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徳正寺 矩庵

長谷川 和子(京都クオリア研究所取締役)


2016年初めてのクオリアAGORAです。 きょうは、京都市下京区の徳正寺に場所を移して開催いたします。 と申しますのは、先ほど皆様方にご覧いただいたわけですが、「矩庵」という茶室がこの徳正寺にはあります。 この設計をされた藤森照信さんに、私は、ぜひぜひ、このお寺でお話をしていただきたいと考えておりまして、それが今回実現しました。


藤森さんの建築はとてもユニークで、なんで、屋根の上にあんな草が生えているのか。 また、ここの矩庵も丸木の上にある茶室なんですが、6メートルもある木の上にある茶室とか、書斎だったら、10メートルもの高さのところにあるとか…。 私たちの想像を超える建築を数多く手がけられていますが、日本のアイデンティティのひとつ「茶室」には、21世紀の課題を解き明かす何かが詰まっているのではないか。 きょうは、建築史家というお立場から世界の様々な建築もご覧になっている藤森さんから、その辺のお話を是非伺いたいと思っています。


藤森さんにスピーチをしていただいた後は、何と、京大総長の山極寿一さんと対談をしていただくことになっています。 どんな展開になるのか、全く想像もつかないんですが、このビッグ対談、皆様多いに期待してください。 では、藤森さん、スピーチをよろしくお願いいたします。



※各表示画像はクリックすると拡大表示します。

スピーチ 「課題解決のヒント満載 “茶室”から何を学ぶか!?」


建築史家 建築家 東京大学名誉教授 藤森 照信さん

建築史家 建築家 東京大学名誉教授
藤森 照信さん



45歳まで、相当まじめな建築の歴史の研究者をやっていたんですけど、45からちょっといろいろ崩れてしまい、いろんなことをやっております。


きょうはですね、建築の歴史をやっている時からの、ぼくの関心だったことを話そうと思います。 普通、建築の歴史というのは、ヨーロッパであればピラミッドから始めます。 日本だと、法隆寺から始めるんですね。 ピラミッドっていうのは、時代としては青銅器時代です。 それは、人類が文字を持った時代で、金属、当然、国家があり、大規模な農業をやっていた。 つまり、日本と中国でしか言わないらしいですけど、四大文明ですね。 そういう文明ができた時から、建築が始まります。 ヨーロッパであれば、ローマ、ギリシャとかロマネスク、ゴシックとかバロックとか、ダーッと今まで建築が発達してくるっていう歴史をやるわけですけど、ぼくが関心を持ったのはですね、そういう文明的な、文字と高度な金属と農業と国家の四大文明ができる前までさかのぼりたい。 その前に関心が湧いてまいりまして、そこまでさかのぼって建築の本質を考えたい。 設計においては、そこまでさかのぼったことを原理として、建築を作りたいと考えるようになったわけです。


それで、青銅器時代より前、つまり、時代で言うと旧石器時代、新石器時代、まあ、旧石器時代というのはほとんど建築的なものはできてなく、新石器時代ってことになるんですけど、この段階っていうのは現実的には見ることができません。 復元で、ほんとかどうかわからないものしか見ることができません。 ところが、幸いなことにアフリカに行きますと、そういう状態を見ることができるわけです。 いわゆる、文明以前の建築の作り方っていうものを見ることができます。


そんなことで、アフリカに興味を持ちまして、見てきたわけです。 その時の画像をお見せします。 どんなものかちょっとご覧になってください。


マリの地面に仕切りをしただけのモスク


泥の大モスクというのがマリ共和国にあります。 具体的にはですね、ジェンネっていう都市(wikipedia)とトンブクトゥ(wikipedia)っていうのが世界遺産なんです。 その二つを見に行ってきたんですね。 面白いと思ったのは、これ。 最初、マリの近くへ行った時に、地面に長方形の仕切りがあって、そこに入ったらものすごく怒られたんです。 「モスク=イスラム寺院」だと言うんです。 向こうがメッカで、時間が来るとおばさんたちが、この場所に座ってお祈りをする。 これで、モスクかって思いますが、要するに、ただの地面を区切った場所なんですね、驚きました。


ニジェール川の泥を材料にした日干し煉瓦


向こうの建物は、全部泥で作っております。 泥というのは、恐らく人間にとって最も本質的な建築材料であり、ほかの物質にはない、独特のものを持っている。 これは、こうやって、今も日干し煉瓦を作っている写真です。 ニジェール川の泥を材料に使っています。


ジェンヌの泥の大モスク


で、これが、世界遺産のジェンヌの「泥の大モスク」というものです。


アフリカの文明・文化だけだと、ここまではできなかった。 イスラムが、ある時期から砂漠を越えて入ってきて、それで、こういうモスクを作るんです。 これが泥の建築としては世界最大のもので、これを見ておけば、ほかを見なくていいというぐらいです。 泥の建築は、アメリカとか、世界中にいろいろありますけれど、簡単なものしかなく、これは、圧倒的にすごい。


実は、これを見た時、ものすごく変な感じがした。 何か、それまで私が見てきた建築とは、根本的に違うって気がしたんです。 でも、なぜ違うのかよくわからなかったんですよ。 最初見た時は、ただ驚いて…。 翌日、もう一回行って、ずーっと見た時に、ふと気が付いたんですけど、自分の立っている土が、そのままずーっと行って壁になって、ずっとお降りてって…。 この街は、泥以外の建築はなくて、すべて泥でできてるわけですけど、何が驚いたかというと、切れ目がないんですよ。 普通、建築は、目地っていいますけど、継ぎ目があるわけです。 ところが、ここには継ぎ目がない。 それで、はたと思ったんですけど、人工物と自然のものとの大きな違いっていうのは、人工物ってのは、いろんなものを集めてくっつけて作りますから、必ず継ぎ目ができる。 ところが、自然のものは、絶対継ぎ目がない。 なぜかっていうと、ひとつの細胞が、2分の1、4分の1…と分裂していきますから、絶対、継ぎ目がないんですよ。 泥の建築っていうのは、人間の作ったものと自然界との真ん中的な変なものだということに気づいたわけです。 つまり、人工物と自然の中間的なものじゃないかと、泥の建築のことを、今、そう思っておるんです。


泥の大モスク 内部

モスクの内部ですが、ものすごく期待してたんですよ。 全部土でできた空間って、どんなものだろうと。 でも、入ってがっかりしたんですね、こんなものかと。 ただ、穴が掘ってあるだけ。


ゴシックになっているのは、後世にフランス人が指導したんですよ。 その前は、木の根太がずっと並んであったらしいですが、マリはフランスの植民地だったですから、フランス風のゴシックに変えた。 ただ、泥の建築は不思議なものなんですよ。


これはね、そういう中で、割合よくできているもので、この家のおばさんが作ったんだと思いますけど、多分換気口です。


換気口



今映っている(↓)のは、トンブクトゥです。 これは、ゲリラというか反政府勢力によって壊されて、フランス軍が入って回復したんですけど、今はもう消滅したそうです。 ここのイスラム教は、過激派から見るとなまっちょろいイスラム教に見えるらしくて、なかなかいい建物ですけど、もうありません。


突然砂嵐が来るんですね。 すると、こんな状態で、朝起きると10センチほども砂がたまっていて、恐らく、トンブクトゥは、そのうち完全に砂に埋もれてしまうのではないかと言われています。 とにかくものすごい砂です。


トンブクトゥ


建物を作っているところ


これは、建物を作っているところです。 こういう形で日干し煉瓦で作るんです。 穀物倉庫でしょうかね。


アフリカに行くと、今でも、枝と草の家を作って住んでいる人たちがいるんですよ。 それで、ニジェール川の川原にそんな家を作っていて、よくわからなかったんですよ、なんでこんな状態で住んでいるのかと。


枝で作った上に牛糞を塗って作った丸い家


砂漠の民のトゥワレグ族の運転手に聞いたんです。 すると、彼らは、自分たちの元奴隷だったのだが、政府が奴隷はいかんということで、あそこに土地を与えたので、川原に住むようになった、というんですね。 何で奴隷だったかというと、トゥワレグの村落同士の争いがあり、負けてしまったほうが奴隷にされたそうなんです。 ちょっとこの世のこととは思えないような話ですけど、それで、こういう枝で作った上に牛糞を塗ってこんな丸い家を作って住んでいる。 恐らくこうした丸い家が、人類の最初の建築の形式だったと思います。


それで、泥の建築、泥の問題の不思議さで、人工の建築と自然との中間っていうことを言いましたが、いくつか面白い経験をしておりまして、ぼくの建物を作る縄文建築団っていう、故人になった赤瀬川原平や南伸坊とかでやってきてるんですけど、趣味とかでなく、本気でやるんですよ。 中途半端はやりたくない。 泥を塗って、相当きつい仕事で、反乱直前みたいなことがよくあります。 ある美術館の屋根で泥を塗る作業をやっていた。 とても暑い中、みんな黙々とやってる。 南伸坊はふつうは冗談を言うんですけど、この時は、何も言わないんですよ。 あ、これ本気で腹を立てていると思った。 もう口もききたくないって。 ところが、終わった時、彼が何て言ったかというと、「もっとやりたい」だったんです。 要するに土を扱っていると、全員が無口になる。 無口になるというのは、もう意識が消えていくんですよ。


土 どろんこ館


これはね、LIXILっていう会社が持っている「土 どろんこ館」という施設です。


常滑にあります。 そこで、子どもたちに泥団子を作らせるイベントがあるんですけど、それは、見るともう異様な光景です。 子どもたちは、何にも言わずに作っていて、その周りで父兄たちも作っている。 もともと、子どもにやらせるために父兄は来ているんだが、見ているうちに自分たちもやりたくなって、最後は全員が無口になって泥団子を作るようになる。 泥は人の意識を吸収する変な力がある。


それをもうひとつ思ったのは、滋賀県近江八幡市にある「たねや」さんというお菓子屋さん。 その建物のことは最後に紹介しますが、そのご主人の弟さんのお家も作ったんです。 その時に、大きな部屋を全部泥で仕上げた。 ものすごく不安だったんですよ、鬱陶しいんじゃないか、と。 泥の空間って現実的にはもうありませんし、ちゃんとした泥の空間って見たことがなかったので、屋根は、大体泥以外で作る。 それをやったもんだからものすごく不安だった。 できて一月後ぐらいに行って、「鬱陶しいとか、何か問題ありませんか」と恐る恐る聞いてみたんですよ。 するとね、「ああ、そういえば泥だなあ」みたいな返事で、どうも印象ってのがないようなんです。 いろんな電気の傘とか、ぼくは、ものすごく苦労して作ったんだけど、どうでもいいって感じなんです。 それで、ぼくも、ずいぶん心配して行ったのだけど、帰る時には、もう泥のこと忘れちゃっていましたね。


泥は、意識を吸うだけでなく、見る人の視線も吸っちゃうようなところがあって、反応がね、いいとか悪いってことが、泥の建築にはないんですよね。 何故かというと、もし土に対して何らかの印象を持っていたら人も動物も生きていけないだろうと。 だってね、土の上で生きてるから、それに対していちいち印象を持っていた日には、歩けないですからね。 だから、人間でいうと空気、泥は、建材としては空気みたいな存在ではないか。 だから、泥は、人間にとってもっとも本質的な物質であると、ぼくは思っているわけですけど…。 ただ、それを建築に使っていくというのはなかなか難しい。 特に、泥を茶室に塗ってありますが、大きくなってくると、印象があるようでないような…。 それで、周りとのコントラストで印象を与えるしかない、って考えています。 いつか、泥を全面的にやりたいんですけど、なかなか難しい。


私が世界で一番好きな建物です


今、映っているの、私が世界で一番好きな建物です。


古いもんじゃなくて、ポルトガルで私の教え子が探し当てたんですけど、どっから建築でどっから石かよくわからない。 丘の上の石から建築になって、また石になって…。 こういうものを作りたい。 何て言うかね、自然と建築、自然と人工の接点のような、ちょうど、人間が自然の中から、ふうッと人間らしくなってきた最初を作りたい。 まあ、できないと思いますけど。 でも、とにかく、こういうものがあるんですよ。 この景色を見た時、孫悟空は、こういうところを飛んでいるのかなとお思いましたね。


私には、もうひとつ、建築に自然を取り込むというテーマがございまして、この写真は、芝棟(しばむね)というものです。 これ、ペンペングサじゃないですよ。


明治末の箱根の宿


明治末の箱根の宿です。 実は、茅葺っていっても、茅だけで葺いた屋根ってなかったんです。 必ず草が植わっていた。 これらの家の屋根は、全部草が植わっています。 それで、茅葺の上には草を植えるんだってことが余りにも当たり前だったものだから、日本人は誰も写真を撮らなかったし、調査もしなかったんです。 これはイギリス人が撮った写真なんです。 イギリス人は、ほんとに不思議だったんだと思いますよ、日本の茅葺の上には全部草が生えているってことに。


日本の建築関係者はみんな知っていたんですけど、誰も調査しなかったんです。 調査しないうちにほとんど滅びてしまって、今、東北地方に50~60棟ありますかね。 雪国以外には、全国にあったことがわかっています。 建築関係者でなく、植物学者が戦前戦後、ずっと調査していたんですね。 茅葺の上に草を植えるというのは、ぜひやろうと思っています。 これは、世界で言うとノルマンディーと日本にだけあるものです。 恐らく、新石器時代に、人類が建築を作り出した時に、防寒のためだと思いますが、屋根全体に土を乗せて、その土が流れないように草を生やして行って、その後、こういう形で残ったのだと思います。 今は、ユーラシア大陸の東と西の端にのみ残っている。


で、それをやってみようというので、これ、赤瀬川さんの家です。


赤瀬川さんの家


こういう状態になっています。 人間の体から産毛が生えるように草を生やそうと思ったわけです。 これ、一応、毛穴のつもりです。 毛に相当するのはニラがいいということで、ニラを植えたんですね。 これでうまくいったんです。


赤瀬川邸の屋根


この写真では、畑だか何だかわかりませんが。 茶室にも植えたんですけど、ただ、ちょっと問題が起こりまして、ひとつは根詰まりが起こった。 そのうち管理をする赤瀬川さんが落っこちる危険も出てきたんですね。 それで、今は、てっぺんだけ保存しています。


建築の緑化というか、人工的なものと自然なものとの関係っていうのにものすごく興味があるんですよね。 その間、接点ということで、泥の問題もそうですし、屋上緑化、その辺にすごく興味があるんです。 まあ、今、画面に映っているのは、建築の緑化を一番試みた伊豆大島に作った建築ですが、もう、これ以上はやらないつもりです。 これ以上だと、危ない方へと近づいてしまうようで…。


そうこうしているうちに、徳正寺さんから茶室を頼まれました。 これは、プロが一人も入らない、全部素人だけでやっているうちに、細川護熙さんから頼まれた茶室の方が早くできてしまい、細川さんの方が私の茶室第1号、徳正寺が第2号ということになりました。 それで、細川さんの茶室を渡したくないという気になってきた。 こんなこと初めてだったですけど、茶室って、あまりにも作る人と近すぎるんですよ。 でも、そんなことだと、他人の茶室ができないんで、自分の茶室を作って心を静めることにしたわけです。


高過庵/長野県茅野市


これがその写真です。


高過庵。 長野県茅野市にある私の実家の畑ですけど、幼馴染の人たちが職人やってるから、一緒に作ったんです。 これを作っているころは、もう、腕の筋が伸びってしまって大変だったです。 最初は、高さがどんなかわからなかったんですね、足場があったから。 とりあえず、床下6メートルってことで作っていた。 工事が終わり、足場を外して職人たちが去って、夕方、ひとり残された私は、その姿を見てほんとにびっくりしたんですよ。 これはねえ、さすがに私も、これは倒れると思った。 倒れたら、縄文建築団とかその重要なメンバーの徳正寺さんとか、うちの学生とかみんなで作った努力が水の泡になるので、せめて写真だけでも撮ろうと、慌てて家に帰ってカメラを持ってきて撮ったのがこの写真です。 それから、恐る恐る登ったんですよ。 それで、にじりあがって踏み出すと、そっちへグーッと傾く。 しゃがむと止まるんです。 反対に足を踏み出すと、そっちへ傾いて止まる。 これ、後で見ると、そんなに傾いてない、10センチ位なんですよ、揺れてるのは。 でもねえ、踏み出した方向に揺れるっていうのは、本当に嫌なもんですね。 今、5人ぐらいまでは大丈夫です。 全員が座ってじっとしたところで止まります。


ヴィクトリア・アンド・アルバートの茶室まあ、そういうものも作って、こういう変な仕事をしていたら…。 あんまりね、本気でこういうちっちゃい建物を作る人は世界にいなくて、つまり、茶室という概念が世界にはないから、概念のないものは作れないんですよ。 これは、日本に生まれたおかげですけどね。 茶室を作りますというと、日本では誰でもわかるんですよ。 説明がいらない。 まず、ちっちゃいもの、変なものである。 それを持つ人は、教養とお金があるって、すっと通じるわけですよ。 これ、茶室の概念のない外国では、ほとんど無理です。 ところが、日本でこんなものを作っていると、それが、結構、いろんな海外での仕事につながってきたんです。 これは英国での仕事で、ヴィクトリア・アンド・アルバートというイギリスの国立博物館の中庭みたいなところに作った茶室です。


台湾で作った舟の茶室


こっちは、台湾で作った舟の茶室です。 ただ、初めてのことってほんとにわからないもので、実は、作っている時は、この屋根が帆の働きをするなんて全然思わなかった。 完成して浮かべたら、風に吹かれて、舟が藪に突っ込んでしまう。 とてもお茶なんか飲んでられないんです。


吊り下げる茶室


これは吊り下げる茶室。


今、移築してあります。 私の高過庵の近くに。 故郷の美術館で展覧会をやった時に市民と一緒に作ったものです。 結構広くて8人ぐらいは入れます。 ぼくは、どんなにちっちゃいものでも、必ず火を入れるんです。 結局、火っていうのは、その建築が人のものだというしるしなんです。 建築は、大体、人の住まいか、神様の住まいとして始まるんですけど、神様の住まいっていうのは火はいらない。 もっとも、拝火教の場合みたいなのはありますが、普通は火はいらない。 人間の住まいってのは、必ず火が必要で、茶室に火があるというのは、決定的に重要なことだと思っています。


さて、最後ですが、たねやさん、近江八幡のお菓子屋さんですけども、大きなプロジェクトがあって、売り場を作りました。


近江八幡のたねやさん


私は、これまでずっと、建築に緑を取り込もうってことをやってきたんですけど、実は、ほとんど失敗してきた。 ただ、施主から、そのことをどうこう言われないんです、幸いなことに。 まあ、施主も同罪みたいなもので、一緒にやってますからね。 でも、このたねやさんの仕事は成功、うまくいったんですねえ。 近江八幡の八幡神社の神体山をバックに作ったんです。 よくこんなものができたなあという気がしております。 土を壁に塗っていて、●は栗の木を山に行って切ってきて製材せずに使っております。 内壁には炭をつけている。


基本的に、土から生えたような建築を作りたい。 だけどね、それだけではない。 自分でも不思議な感じがして…。 それは、秋野不矩美術館を作った時にですね、やはり、丘の上に土から生えたように作ったんですよ。 そしたら、それを見た建築家の伊東豊雄さんがね、「お前の建物は、土から生えたっていうけど、自分にはそうは見えない。 どっか知らない国から飛んできて、着地したように見える」っていうんですよ。 ぼくは、それを聞いてすごいと思った。 ぼくも薄々変なこと感じてたんですよ。 確かに、土から生えてきたようにと思っているし、自分じゃそんな気恥しいことは言えませんけど、縄文的建築とか人から言われ、そうかなとも思うが、土から生えてきて、ふっと浮きたい。 遠い空の上までを感じながら、ふっと浮きたいという感じがあって、これでね、結局、茶室も一度も地上の茶室は作ったことないんですよ。 徳正寺もちょっと浮かしてある。 細川さんのところも、斜面だったこともあってちょっと浮いている。 今までお話したように、何か土から生えて、でも、ちょっと浮きたいっていう、そういう思いがあるんです。 これ、自分でも、なぜそうなるかわからないのですねえ。 とりあえずこのへんで終わりたいと思います。






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人間ひとりひとりの深く高質な感性(クオリア)に価値を置く社会、これは各人の異なる感性や創造性が光の波のように交錯する社会ともいえます。
京都からその実現を図ろうと、各種提言や調査、シンポジウムなどを開催した京都クオリア研究所ですが、2018年に解散したため、㈱ケイアソシエイツがその精神を受け継いで各種事業に取り組んでいくこととなりました。
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